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コラム

2024.03.15

加齢臭の生物学的意味

5年ほど前、晩秋の或る日、妻と小学生の孫娘が、私の部屋のドア越しで何やらひそひそ話をしていた。「覚悟出来た?行くよ」とか言った後、ドアが急に開き、片手で鼻をつまみ、片手に消臭スプレーを持って突然侵入し、シャー、シャーと一人7、8回噴射して、瞬時に退室してドアをバタンと閉めた。

ドアの向こうで、「死ぬかと思った」という声が聞こえてきた。死ぬかと思ったのは私の方なのだが、そう言えば妻が、私の部屋を掃除する度に、「この部屋、少し匂うので換気に気を付けて下さい」と言っていた。

私の部屋は窓が2カ所有るが、洋古書が山積みになっていて換気は入り口のドアのみである。加齢臭の染み付いた万年床も有って、洋古書の古びた匂いと私の加齢臭が見事にマッチして、部屋全体が、異臭という香しい香りを醸し出している。慣れきった香りの中で生活している私には、豊穣な異臭は全く気付かないから困ったものである。調べて見ると、加齢臭とは、高齢者の男女にみられる特有の体臭の俗称で、その正体は、ノネナール、ペラルゴン酸、ジアセチルと言われているが、詳細は未だ不明らしい。

我々人類は年を重ねると、頭、足、脇、臍など、全身が臭くなる。特に、猛暑の中、汗だくになりながら家族のために必死で働いているお父さんは、なおさら、加齢臭の固まりだ。だからと言って、世のお子様方、そのようなお父様に、ゆめゆめ、「臭いからあっちに行って」などと言ってはならない。好きで加齢臭を醸し出しているのではないのだから、「お父さん、先にお風呂に入ってください、今日もご苦労様でした、カレーシチュー食べすぎないで下さいね」ぐらいに、ユーモアを交えて遠回しに言って欲しい。

長い人類史の中で、人間は不必要な物を切り捨て退化させて来た。例えば、尻尾、耳を動かす筋肉、虫垂、お猿さんのような体毛などだが、加齢臭については退化する気配は一向に無い。人間にとって必須なのか、加齢臭は一層強さを増して残存している。人類史の中、存在意義を主張し続ける加齢臭の生物学的意味は、果たして何なのだろうか。

調べようが無いので、私なりに邪推してみた。⑴老人だから、気をつけてね、と周囲の人に知らせるだめ。⑵匂いがきつく、若い人に嫌われて、若者に道を譲るため。⑶匂いがきつく集団から追い出され、かえって人類の生息域を広げるため。⑷匂いがきつく、家族に嫌われて、近親相姦を防ぐため。⑸太古の時、もう老人だから、他の獣に、襲って食べても良いと知らせるため。⑹余りの異臭で、本人気づかず昇天して、口減らしになるため。

⑵から⑹は余りに悲し過ぎるし冗談混じりで先史時代に当てはまる事なので、私は⑴だと確信する。加齢臭は、車で言えば、70歳以上の高齢者マーク(四つ葉マーク、枯れ葉マーク)の役割を担っているのだと強く確信する。私を含めて、加齢臭を身にまとった高齢者に出会った時は、お年寄りなので大切に扱って下さいねと、匂いを便りに伝えているのだから、近づいて深呼吸したり、クンクン匂いを嗅いで、オエ!と嘔吐したりせず、優しく温かく少し遠巻きに見守って頂ければ幸いだ。

世の高齢者の皆様、加齢臭は、天が授けた人類必須の機能なのだから、恥じる事なく胸を張って下さいね。誰も居ない所で初秋の風に乗せて、その豊穣な香りとともに、私は、愛する人達のためこの地上で精一杯生きていると、天に伝えて下さいね。

●渡辺私塾会長  著述家  渡辺美術館館長   渡辺淑寛

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