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コラム

2023.09.15

小さな物語
1972年のハーベスト

 よく利用するスーパー「とりせん羽川店」で秋刀魚の塩焼きを買い、帰宅後、レンジで温めながら、なぜか秋という漢字に興味が向いた。「のぎへん」に「火」と書くのだが、秋という字になぜ「火」があるのか。

 漢和辞典などによれば、秋の字には省略された部分があったという。それは触覚のある虫のような形。つまり、「秋」は本来「のぎへん」+「虫の形」+「火」の三つの要素で構築されていた。その中から「虫の形」が抜け現在の字になったという。のぎへんは稲などの穀物のこと。田んぼには収穫間近の稲穂が豊かに稔るが、イナゴの害から大切な稲を守る対策も必須。それが、イナゴを捕まえて火で焼き殺す“儀式”。稲の収穫の時期に、実りを手にいれるため、イナゴの害に「火」で立ち向かう。それが「秋」の重要な行事だったようだ。

 収穫の秋というと、ニール・ヤングの「ハーベスト」を真っ先に連想する。1972年2月にリリースされ、全米、全英チャート1位を獲得。シングルカットされ大ヒットした「孤独の旅路(Heart of Gold)」が好きだ。荒々しくも、ポップな彼の代表曲である。LPジャケットの裏面全面にバンドの演奏風景を収めた写真がレイアウトされているのだが、農家の納屋と思しき場所で演奏するメンバーは全員、ギターを弾くヤングに視線を注ぐ。名手ベン・キースのスチールギター、ジェームス・テイラーの弾くバンジョーなど、このアルバムはカントリーの味付けが程よく効いている。1945年11月生まれのヤングは現在77歳。今もエネルギッシュに音楽活動を続けている。 ここからは余談になるが、先の裏ジャケ写真にも写っているヤングの音楽的アドバイザーも務めていた編曲家のジャック・ニッチェはwall of soundを共に創り上げた盟友フィル・スペクターより先、2000年8月に世を去った。スペクターはコロナウイルスにより2021年1月、刑務所の中で81年の人生に幕を降ろした。スペクターもニッチェも晩年、恋人に銃口を向け逮捕されている。天才と呼ばれた者の辿るひとつの道、なのだろうか。

 こんなことを書きながらも、今、昼も夜もパソコンに向かいながら聴きまくっているのは、1980年代、バンドをやっていた少年少女の熱い支持を得ていたゼルダ。ゲームではない! 言葉選びのセンスが眩しいヴォーカル高橋佐代子の詩の世界に再び魅了されている。何10年かぶりのゼルダブーム。私の心は収穫(ハーベスト)の季節真っ只中である。