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コラム

2025.05.13

教育・文化芸術・科学コーナー第21回 愛犬パスカル夏に逝く 〜愛玩動物試論その1〜 〜ペットロスに苦しむ方々にこの拙文を捧ぐ〜

〜全てのペットはサンタクロース(セイントクロス・聖なる十字架)〜

 7月24日、16年間連れ添った愛犬パスカルが灼熱の夏の夜、来世に旅立った。2年前の本誌10月31日号で、「愛犬パスカルとプラトン」という拙文を掲載して頂き、その中で言及したように、2年前から老衰状態に陥り、掛かり付けの獣医師さんの御陰で2年間生き延び、先月大往生を遂げた。
 16歳といえば、人間では百歳に近いのかも知れない。ここ2年間は歩くのもままならず、下の世話も私がした。愛する者の世話は、不思議なもので、全く苦にならない。他界した父、母、兄の時と同様、生き残った我々は、辛い別れを、全身で引き受けなければならない。それが世の常である。それでも、誰も居ない時、パスカルが横たわっていた所で「パスちゃん」と、小声で何度も呼んでみる。勿論返事はない。
 だが、この拙文で、私や妻の悲しみを書き連ねるつもりはない。ペットロスで苦しむ方々の悲嘆を増幅してしまうかもしれないからだ。
 私は、心に穴が空いたとき、思想・哲学でその穴を埋める術を、いつの間にか身に付けた。それ故ここでは、「愛玩動物試論」という形で、その思想を少し展開してみたい。
 妻は臨終時、死に目に会えなかった事を後悔し、自責の念に駆られ、涙を見せた。私も仕事中で、腕に抱いて送ってやれなかった。しかし考えてみれば、我々人間は、仕事を、持っているのだから、死に目に会える事の方が稀有な事だと理解すべきである。幼少時、愛する老猫が、人知れず縁の下の奥の方に隠れ、そっと息を引き取るのを、偶然目撃した事がある。愛玩動物達も、飼い主との別れが辛いので、誰にも知られずひっそりと旅立ちたいのであろう。臨終に立ち会えるかどうかは、人知を超えた運命に任せるしかないと思う。
 私は、以前から、ペットの存在意義は、人間を癒すためにある、という人間中心主義の考えには、違和感を抱いてきた。夫婦同様、何かの縁で一緒に生活するようになったペットは、人との触れあいの中で、精神的に進化し、逆に人間の方も愛を受けとるだけの子供達が、愛を与えることを学び、出会いと別れの喜びと悲しみを知り、人間も同時に進化していくという共同進化論を、私は第一義としたい。
 物の本によれば、他界した動物達は、あの世で仲間の群れに戻り、地上で得た知恵や情感を、仲間達と分かちあい、類魂として進化していくという。そして、飼い主が、あの世に帰ると、愛する動物達は元気に迎えに来て、歓喜の再会が出来るという。事実かどうかは別にして、これだけは言える。愛玩動物は、この地上に、我らより後に来て、我らより先に天に帰る。サンタクロースは、クリスマスイブ一夜しか留まらないが、ペット達は、何年も一緒に居てくれる。サンタさんは、煙突から帰るが、ペット達は、「死」の形でお空に帰る。ペット達は、この地上で飼い主と深く心を通い合い、立派に使命を果たして、悠久の進化の旅に戻るのだ。我々は悲しんでなどいられない。我らは、彼ら彼女らの使命の達成を称賛し、感謝し、祝福して来世に送り出すべきなのだ。ペット達は生まれ変わり、別な国の家庭に、或いは別な天体の家庭を訪れるかも知れない。そう、我らは悲しんでなどいられない。彼ら彼女らに見習って、精一杯生き抜き、這ってでも生き抜き、人類の、悠久の進化の道をほんの一歩でも進まなければならない。悲しみすぎるのは、自分に対する憐憫であり、甘えであり、人間の自己中心主義だよ、と、ペット達は、最後のまなざしで我らに伝えたいのだと私は思う。
 21世紀初頭、戦争と暴力と差別に満ちたこの地上で悪戦苦闘している我々人類に、愛玩動物達は、天が与えてくれたサンタクロース(セイントクロス・聖なる十字架)なのだ。我らは、天のご配慮に感謝し、天の贈り物であるペット達に感謝し、帰途につくサンタさんと、しばし別れを惜しんだ後で、自分達の使命を果たさねばならない。農家の方々であれば、美味しい作物を作ること、製造業であれば安心できる製品を作ること、サービス業であれば、心からのサービスを提供すること、公務員であれば、地域住民のために働くこと、主婦であれば笑顔溢れる家庭を築くこと等、我らにはささやかだが大切な使命がある。その使命を果たせないなら、一緒に過ごしたサンタさん達に顔向け出来ない。
 我が家には、アフリカ原産バセンジ種の「プラトン」というサンタさんがもう一人居る。既に12歳なので、あと数年でお別れだろう。パスカルに何度も語りかけたように、プラトンにも言わねばならない。「私と妻が精一杯生きて、パスちゃんと同じように長生きした後、お空に帰る時は、必ず迎えに来るんだよ」と。

●渡辺私塾会長  著述家  渡辺美術館館長   渡辺淑寛

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