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コラム

2025.07.17

教育・文化芸術・科学コーナー第23回 フェミニストの蛇マフラー

 私は、小さい頃から女性に対しては畏敬の念を持っていた。何故かは解らない。「畏敬の念」の半分は憧れで、半分は女性からよく思われたいというよこしまな思いなのかも知れない。今でも、数十歳も年下の親類の多くの女性に敬語を使っている。ほとんどの男性に対してはため口なのに、女性には他人行儀と思われようが気がついたら無意識に敬語を使っているのだからどう仕様もない。いわゆる生まれながらのフェミニスト(女性の権利を尊重し、女性に優しく接する男性)なのだろうか。
 このフェミニストぶりは、小学生から発揮していた。半世紀以上も前、学校の給食では、脱脂粉乳の牛乳が必ず提供され、女の子の中には、鼻をつまみながら飲み干す子も居た。冗談なのだろうが、全部飲まないと家に帰れないという暗黙のきまりを口にする先生も居た。毎日、給食時間が終わりに近づくと、半分程残った牛乳を絶望の眼差しで見つめる女の子が4、5人居るのが常であった。私はそっと近づき、飲めずに残った牛乳を全部一気に飲み干し、何事も無かったかの様に静かに席に着いた。当然の如く、私は、想像以上に感謝され、女児の人気者であった。一方、男の子には、悪魔のようないたずらをした。男児の一人が牛乳を飲んだ瞬間大声で「鼻から牛乳!」と叫ぶのだ。そして3回に1回は、本当に鼻から牛乳を吹き出す子が居て、不思議な事だが、吹き出した方が悪く、吹き出させた悪童が勝ちという妙な雰囲気が有った。それに勉強も少し出来たので、牛乳飲みすぎ栄養過多で小太りであったが、クラス一の人気者であった、小学5年のある事件までは。
 当時小学校の運動場の裏は緩やかな坂で、低木、雑木が生い茂り季節には蛇も散見された。あれは9月の晴れた日だったと思う。坂下を上から覗いていると、中腹に、やや小ぶりの青大将が居るのがわかった。運動場の方を見ると、同じクラスの女の子が7、8人遊んでいた。良し、女の子達を喜ばせてあげようと一念発起し、坂を降りて蛇を捕まえ、頭と尻尾を持って首に巻き、女の子達の方にニヤニヤしながら近づいて行った。首のマフラーが蛇だとわかった瞬間、全員きゃーと叫びながら一斉に逃げ出した。あの天にも届く「キャー」は喜びの極致なのかとも思ったが、少しやり過ぎたかという自覚も有った。案の定、迷惑そうな眼差しの蛇をもと居た所に放して教室に戻ると、女の子全員、私を忌み嫌うかのように遠巻きにして一切の接触を避けた。そして翌日から、牛乳を残す女児は皆無になった。あの蛇マフラー小僧に飲まれる位なら、泣きながらでも自分で飲み干した方がましだと思ったのだろう。蛇マフラー事件は、現在なら完全なハラスメントだが、今でも誓って言える。大失態ではあったが、動機には、女の子達を喜ばせたいというフェミニズム思想が根底に有ったと。
 そうそう、私がもともと蛇好きだったという訳ではない。その証左に、家に帰ってすぐ、お風呂場で、「何やってんだっぺ、おれ、オエー」と言いながら首の周りを石けんで数十回洗ったのだから。

●渡辺私塾会長  著述家  渡辺美術館館長   渡辺淑寛

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