3辺の長さが判っている三角形の面積を求める時、余弦定理でCosAを求め、それをSinAにして、最後にS=bcSinA÷2で求めるので、手数が長い。しかしヘロンの公式S=√s(s-a)(s-b)(s-c)を使えばすぐ求まる(ただしs=(a+b+c)÷2)。だが長年答案を採点していて、前者の方がヘロンの公式を使った解法より正答率が高い。理由は簡単だ。ヘロンの公式をうろ覚えにしているからだ。多いミスは、ルート前に
2分の1をつけてしまうミス。s=(a+b+c)÷2の÷2が抜け落ちるミス。更にルートの中の最初のsをつけ忘れるミスなどだが、これらのミスを避ける方法がある。それはヘロンの公式を自分で証明する事だ。一見難しそうに見えるがたいしたことはない。手数が長いと言った前者の解法をa,b,cのまま計算すれば良いだけである。1-Cos2Aを先に因数分解してから余弦定理を代入すると少し楽かも知れない。2、3度、自分で証明すれば、2、3年は正確に覚えているものだ。
次に円に内接する四角形ABCDの面積でブラーマグプタの公式の話だ。角B+角D=180度なので、余弦定理よりACの二乗を二通りで表してCosBを求め、SinBにしてS=abSinB÷2+cdSinD÷2=√(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)(ただしs=(a+b+c+d)÷2)の公式が得られる。ヘロンの公式と同様、1-Cos2Aを因数分解してから計算すると楽である。ルートの中の因数分解が面倒に見えるがたいした事はない。
sからa,b,c,dをそれぞれ引くだけだからヘロンの公式より覚えやすいし間違いが少ない。そしてdが零の時がヘロンの公式になっていて、ヘロンの公式はブラーマグプタの公式に内包されていると言って良い。論述式でブラーマグプタの公式を使う場合減点覚悟だが、検算にも利用出来、短答式では、即答可能で時間の節約にもなってかなり有利になる。重要な事は、この公式を自分で2、3度証明しておく事だ。
そうすれば論述式でも容易に対応出来る。2019年大学入試に限っても、a,b,c,dまま証明させる問題が京都府立大、4辺が3、4、5、6で面積を求める問題が産業医科大、4辺が2、3、1、2の場合が東北学院大など意外と出題率も高い。
ヘロンは、当時古代ローマの属州であったエジプトのアレクサンドリア生まれのギリシャ人で、西暦10年生まれ70年頃没と言われているが詳細は不明である。現在の自販機の原型を発明したり、風力オルガンを作ったり、簡単な蒸気タービン、蒸気による自動扉を作ったりと、希代の発明家でもあったようだ。
ブラーマグプタ(598~665?)は、インド西部ピッラマーナ生まれのインド人で、数学者、天文学者として著名であり、628年零の概念を確立し、ウッジャイン天文台台長を長年勤めた。
此処で突然、玄奘(げんじょう)三蔵法師(602~664)(以下玄奘)が登場する。孫悟空、猪八戒、沙悟浄を引き連れたインドへの取経の旅(629~645)「西遊記」で有名な三蔵法師だ。取経の旅から帰った翌年の646年、玄奘は「大唐西遊記」全12巻を表したが、第11巻で、ブラーマグプタの住むウッジャインを訪れたと記されている。此処からは推測だが、遙か唐の国からはるばる来訪された
高名な法師に対して、ウッジャインの町の著名な知識人文化人であるブラーマグプタが、玄奘一行を歓待したのではと考えても不思議では無い。ブラーマグプタは玄奘に、「円に内接する四角形の面積は・・・」と長々説明したのだろうか。
それを聞いていた孫悟空は「何を訳の分かんない事を言ってんだこの野郎」と言って、如意棒でブラーマグプタの頭をポカリとやったのだろうか。妄想が妄想を呼んで興味が尽きない。話を戻そう。
数学を学ぶ高校生に告ぐ。数学を学ぶという事は、ただ公式を丸暗記して数字を当てはめ答えを出すという無味簡素な作業では決してない。自分で公式を喜々として証明し、公式の背後に隠された意味、本質、歴史を学ぶ楽しい作業だという事を、数学を学ぶ全ての高校生に是非知って欲しい。
●渡辺私塾会長 著述家 渡辺美術館館長 渡辺淑寛
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