アップライトベース、アコースティックベース、ウッドベース、など、呼び名も多いコントラバスの魅力を、「味わい深い音でしょうか」と哲学者の眼差しで語り、さらに、「重低音にはもうそれだけで人間の感覚の根源を刺激する魅力がありますね。
アンサンブルの中での低音の役割はハーモニーの土台を提供することと、快適な前進感をもって
リズムを作り出して音楽を進行させることです。そういう重要な役割を担っていることにやりがいを感じます」と、楽器へ優しい眼差しを注いだ。
野中さんは氏家高校オーケストラでコントラバスを始め、20歳の時に、当時のトップジャズベーシストであった原田政長氏に教えを乞うべく、代々木のルーツ音楽院に入学。
1978年には同院長澤田駿吾氏の推薦により、尾田悟カルテットのベーシストとして自由が丘「ファイブスポット」で幸運なプロデビューを果たした。ジャズの仕事の傍ら、高西康夫氏の元でクラシックの修行に励み、30歳の時に東京藝大合格。以降、内田晃一カルテット、伊原康二トリオなど数多くのグループに参加。
コンサートやライブハウスでの演奏の他、スタジオミュージシャンとしても数多くのレコーディングに参加。国内各地はもとより、アメリカ、ドイツ、フランス、中国、台湾など海外での演奏も経験。テレビでは「ときめき夢サウンド」、 フジテレビ「ミュージック・フェア」などに出演、等々、プロのミュージシャンとして活動していた。
活動拠点を地元に移行した現在は、小山市の道の駅思川を会場に毎月開催される歌声喫茶にアコーディオン奏者として出演中。5月11日には、小山市立文化センター小ホールを会場に開催される「二つの栃木」と題したコンサートに、EIJI NONAKA QUARTETとして出演。メンバーは他に、ピアノ村田望さん、フルート島田絵里さん、ドラムス貝増直樹さん。開場は午後1時、開演は1時30分。料金は2000円(全席自由)。このコンサートは小口一郎生誕111年、足尾鉱毒事件北海道佐呂間集団移住114年として開催され、佐呂間町が特別後援している。
「渡良瀬遊水地は、足尾鉱毒事件による鉱毒を沈殿させ無害化することを目的に、渡良瀬川下流に作られた日本最大の遊水地であり、本州以南最大の湿地で2012年7月3日、ラムサール条約の登録湿地になった」とウィキペディアには説明がある。今はコウノトリも生息する緑豊かな遊水地だが、そこには以前から人口3000人弱、谷中村の集落があり、遊水地を作るため、住民は半強制的に移住させられた歴史がある。かの田中正造は、政府のやり方に異議を唱え、小山市出身の版画家、小口一郎は、そうした経緯を作品にすることで、田中の行動に共感の意志を示すと共に多くの人にわかりやすく知らせた。北海道佐呂間町に移住した元谷中村の住民は、新たな地を「栃木」と呼んだ。
野中さんは、一昨年、道の駅思川「評定館」で開催されたジャズコンサートで自作の曲「二つの栃木」を披露。来月のコンサートは、まさにこれがテーマとなる。
野中さんは現在、自宅のきぶなミュージックスタジオでコントラバス教室も開いており、中学生から中高年まで様々な年代の生徒に教えている。「これからは、中学高校の吹奏楽部員の指導をしていきたい」と意欲的だ。