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コラム

2023.11.30

教育・文化芸術・科学コーナー第18回
数学を学ぶ高校生へ、
「完全順列は漸化式を作って楽しく学ぼう そしてモンモールからオイラーへ」

 1708年、フランスの数学者ピエール・モンモール(1678~1719)は、トランプで1から13までの数字を、二人がお互いに出し合って、数字が1枚も一致しない確率はどれ程なのか、という問題を提起した。別な言い方では、例えば5人のパーティーで全員がプレゼントを持ち寄り、全員、持参した自分のプレゼント以外のプレゼントを受け取る場合は何通り有るのか、またその確率は?という問題と本質的に同じである。この問題を「完全順列問題」、「モンモールの問題」と呼ばれ、長年に渡って受験生を悩ませて来た。n人がプレゼントを持ち寄って、全員、自分が持参したプレゼントと異なる他の人のプレゼントを受け取る完全順列の個数をA(n)とする。A(1)=0,A(2)=1,A(3)=2である。(A(3)
では、1,2,3に対して2,3,1と3,1、2の二通り)、1740年、スイス生まれの大数学者レオンハルト・オイラー(1707~1783)は、完全順列の漸化式を作り一般解まで発見し、モンモールの問題を見事に解決した。大学入試レベルでは、漸化式を作り、A(4)、A(5)、A(6)と順に求めていけば十分であろう。今、プレゼントを持参して1番目からn番目のn人がパーティーに来たとする。完全順列になるには、n番目の人に限れば、1からn-1番目の人のプレゼントを受け取るn-1通りだ。今、n番目の人に1番目の人のプレゼントが来たとする。n番目の人は、1番目の人に「おーい、1番ちゃん、僕のプレゼント貰ってくれる?」と尋ねると、1番目の人は、「うん、頂くよ、有り難う」と言ったとすれば、1番目とn番目は完全順列になったので、残りは2番目からn-1番目のn-2個の完全順列A(n-2)の個数である。もし1番目の人がn番目の人に、「やだよ、君のことは前から嫌いだったから、受け取らないよ」と言ったとしたらその場合は、1からn-1番目の完全順列A(n-1)個となる。これでA(n-2)+A(nー1)だが、n番目の人には、1からn-1番目のプレゼントが来るn-1通りの可能性が有るので、最終的に、A(n)=(n-1){A(n-2)+A(n-1)}である。この漸化式を用いると、A(4)=3(1+2)=9,A(5)=4(2+9)=44,A(6)=5(9+44)=265と順に求まる。A(4)になる確率は9÷4!=0.375,A(5)では、44÷5!=0.367,A(6)では265÷6!=0.368で、オイラーはnが大きくなると、0.367879・・・(1÷e)になることを証明した。

 大学入試では、2004年東工大後期に、2問のうち、前述の漸化式を証明する1問が出題され(90分)、入試関係者を驚かせた。東工大後期出願者は数学のエキスパート揃いで、易問だと評する者も居たが、「旺文社全国大学入試問題正解数学編」の解答責任者を12年間務めた
受験数学界の大御所は、「過去、多くの大学に出題されている有名問題だが、理解しにくい解説が多く、適切な本を読んでいないと再現が難しいだろう」と正直に述べている。直近では、2022年共通テスト数Ⅰ・Aでも出題され、平均点38点という信じられない低得点の一因となった。
 完全順列は、手を替え品を替えて毎年難関大を中心に出題され、相変わらず受験生を苦しめているが、何にもまして大切な事は、前述の漸化式を自分で何度も作ってみることだ。コツは、A(n-2)、A(n-1)を判らないまま使う事で、中学数学で、XやYを判らないまま使うのと同じで難しくない。モンモールやオイラーが数と形と論理で、無限に広がる宇宙の秘密に切り込んで行ったように、私達も自らの頭で考え、自らこの漸化式を証明することによって、モンモールやオイラーが追い求めた夢を僅かだが共有する事が出来る。数学を学ぶ高校生の皆様、数学の美しい公式を自ら証明し、先人達の夢見た世界にほんの僅かでも足を踏み入れてみたら如何だろうか。

●渡辺私塾会長  著述家  渡辺美術館館長   渡辺淑寛

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