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コラム

2024.03.16

教育・文化芸術・科学コーナー第21回<br>買い物の狩猟性<br>~悠久の人類史の中で~

 50年前、真岡市に「渡辺私塾」を開設し、最初の30年は、脇目も振らず無休で仕事に邁進していたが、超多忙の中でも、幾つかの楽しみが有った。一つは、塾生達と笑顔で触れ合い、少年少女の目映い成長振りを目の当たりに出来る喜び。二つ目は、廉価な美術品や稀覯本をささやかに蒐集する喜び。勿論それらの蒐集品が現在渡辺美術館の展示作品になっているのは言を待たない。そしてもう一つ不思議な喜びが有った。以前は深夜まで営業しているスーパーが近くに数店有り、仕事が終わる夜の11時ごろ、週に2、3度買い物に出かける事が無上の喜びであった。最初、その喜びは、店内を数回周遊し運動不足を解消出来るからだと思っていたが、どうも違う、もっと根源的で本能に根ざした喜びだと思うようになった。

 人類の歴史は、諸説有る中、石器を使用した200万年前のアフリカ、ホモ・ハビリスやホモ・エレクトス(ジャワ原人)から始まったとすれば、我々人類の歴史は、ほとんど狩猟の歴史であると言って良い。農耕・牧畜・定住を始めたのも高々1万年前。英国の蒸気機関を背景にした第1次産業革命は高々300年前。石油と電気の第2次産業革命も高々150年前。コンピューターによる第3次産業革命も50年前。AIによる第4次産業革命に至っては極最近に過ぎない。我々人類は、悠久の人類史の中で、200万年のうち199万年は狩猟生活をおくっていたのだ。腕力の強い男性が狩りに出かけ、生存能力に長け、肝の据わった女性達が家を守ったのだろう。だから、狩猟性が失われた現代社会で、我等男達は、太古の狩りとは大きく変容してしまったが、「買い物」という名のささやか「狩り」に出かけるのだ。我等男達の中に流れる赤き血潮が、買い物でも良いから狩りに出かけよ、と抗しがたく心地よく呟く続ける。半額や7割引きの食品を買って帰る時は、遙かいにしえの時、素晴らしい獲物を捕った時のように、意気揚々と力強い足取りで家に帰る、家族に、「お父さん、また買ってきたの!冷蔵庫にこの前のが沢山残っているのよ!!まったく!!!」と叱責されるまでは。

 この赤き血潮の心地よい誘(いざな)いには、どうにも抗(あらが)いようがなく、家族から何度となく非難されても、後期高齢者になっても、私は今でも40年間営々と買い物という名のささやかな狩りを続けている。私だけでは無い。親類の中に、3名ほど何かに取り憑かれたかのように狩りを続けた男性が居た。その一人とは今でも、とあるスーパーで出くわす事が有り、苦笑いをしながら、会釈を交わす。その苦笑いは、「本能的根源的衝動だから、まったく と言われようが買い物は止められないよね」という共通の認識と確信と少しの恥じらいの表出だ。

 世の奥様方、ご主人が白い買い物袋をカサカサいわせて帰ってきたら、「今日の獲物はどうでした?あら、これ7割引きね、お父さん偉い!」と時には褒めてやって欲しい。褒められれば、男は、喜々として家族のために馬車馬のように働くものなのだ。

 お、今、太古の狩りの喜びを記憶する赤き血潮がささやいている、「狩人よ、勇者よ、今は狩りの時、いざ!」と。私も行かねばならない、ライバルひしめく街中の猟場へ、槍の替わりに財布を持って。

●渡辺私塾会長  著述家  渡辺美術館館長   渡辺淑寛

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