昨年暮れのホープフルステークスから始まった中央競馬会の平地G1レース1番人気馬の連敗記録が、秋の天皇賞(10月30日、 東京・芝2,000m)でやっと終止符を打った。連敗を16で止めたのはデビュー5戦目の3歳馬イクイノックス。皐月賞・ダービーはともに2着惜敗だったが、強烈な末脚がファンの心をつかみ天皇賞は休み明けながら単勝2.6倍の1番人気に支持された。レースは7番人気のパンサラッサが激しい先行争いを制すと、1000m通過が57秒4という超ハイペースで快走。直線を向いても脚色は衰えず後続に15馬身の差をつけ場内を騒然とさせた。その時イクイノックスは中団の後方から,追い出しを開始すると、ラスト200mで7〜8馬身先を走るパンサラッサを一気に抜き去りゴールを駆け抜けた。上がり3ハロン(600m)32秒7。パンサラッサの上がりを4秒1も上回る〝鬼足〟だった。父・キタサンブラック譲りの青鹿毛に大流星のイクイノックス。惚れ惚れとする容姿と直線での豪脚は、今後のG1戦線の主役を張るにふさわしい鮮烈なものだった。記憶に残る名勝負となった今回の天皇賞。最優秀助演男優賞を選ぶなら、痛快な大逃げを打ったパンサラッサだろう。1,000m通過57秒4は、稀代の〝スピードスター〟サイレンススズカが1998年の天皇賞でマークした数字に並ぶものだ。そのサイレンススズカは第3コーナーで故障が発生し競争中止、安楽死処分となってしまった。オールドファンならその悲劇が一瞬,脳裏をよぎったかもしれない。しかしパンサラッサは粘りに粘って1馬身差の2着を死守。〝天晴れ〟の判子を100回押したいほどの見事な逃走だった。秋のG1はこれから佳境を迎える。コロナ禍でご無沙汰しているが、以前は行楽がてら大田原に住む馬仲間ととも,に白河の場外馬券売り場(年寄りは「ウインズ」という呼称が苦手)に行ったものだ。大田原から黒羽、那須を抜けて車で 分。途中、那須町の道の駅「東山道伊王野」で天もり蕎麦を食べるのが楽しみだった。この秋は久しく会っていない〝馬友〟と、紅葉の那須路で旧交を温めようと思う。
最後に秋の馬の俳句をひとつ。
御神馬の瞳動かず秋の暮
仙田 洋子