人の死は突然であることが多い。さらには、日数を置くことなく葬儀の手配に気を配る必要にも迫られる。突然出現したこころの空洞に、悲しみだけが流れ込んでくるような日々。家族の者であればその思いは尚更だ。そのようなとき、亡き者を見送る、もしくは、送る、という表現を私たちは用いる。そこには、亡き者への敬いと残された者への慰めがあるように思う。
地元小山市で葬祭業を興して以来、ほぼ半世紀の時を刻み、2年前、まちの葬儀屋さんおくりやとして新たなスタートをきった。社長の奥澤亮さんは小山市生まれ。現在、45歳。小学生の頃からからサッカーに打ち込み、インターハイにも出場。現在、11歳以下の小学5年生対象の名蹴会 カップU-11少年少女サッカー大会の運営にも携わっている。
祖父が創業した現在の葬儀社に入社したのは、大学を卒業してすぐ。3代目社長を務めた父親の跡を継ぐかたちで6年前、社長に就任。2年前には葬儀場の建て替えにあわせて名称を替えた。ロゴマークも自身で考案。「若い方からシニアの方まで誰もが一度見てわかるようなデザインにしたいと思い、その結果、シンプルなマークになりました」。
核家族化、コロナ禍などの影響で家族葬が増えるのに伴い、新たな葬儀スタイルを提案したり、葬儀の後のアフターサポートにも力を注ぐまちの葬儀屋さん「おくりや」を中心に、事前相,談もできるまちの集会所「おくり茶や」、さらには、まちの休憩所「おくりやプラス」、「ロブレビルを元気にしたい」との地域貢献の思いをバネに、ロブレ2階、ツタヤの隣りで5年前に始めた「フラッフィーパンケーキ＆カフェ」、ロブレ6階、総合学習塾Dream Camp（ドリームキャンプ）、共におーバスを利用することで、クルマのない方も足を運べる場所という条件を満たすロブレを選んだ。「カートを引いたおばあちゃんがパンケーキを食べに来たりしていますよ」
私の祖母が「事務所で、葬儀が無い時でもお茶飲みに来てね、と気軽に声をかけていたのを何度も見ていました」。葬儀場の隣りに「おくり茶や」を併設したのは、祖母の言葉がヒントになった。
「カフェを併設することで、社会問題にもなっている高齢者の孤独死を防ぐ一助にもなるのでは、と思っています」。高齢者がひとりで家に残ると、まったく外に出なくなってしまう。いつの間にはひとりで亡くなるというケースも多い。「孤独死の防止のために、そういう場所を作れば、『お茶飲みに来てください』と違和感なく言えるのかなと思います」
お話を伺いながら、「コミュニティーの力」という言葉が浮かんだ。死者を送る、だけではなく、「長生きしてもらうために、何をしたらいいだろう」と考えることが多い、という。
家族では手に負えない遺,品整理などをしていると、本もたくさん出てくる。東日本大震災の後、「みんなの図書館」をつくった。仮設住宅での暮らしが長引き、ふさぎ込んでしまう人も増えた。図書館があれば、みんなと一緒でも、一人でも、本を読める。北海道の夕張に図書館を作りに行ったこともある。財政破綻のため小学校も機能せず、子どもたちが読む本もない、と聞くや、行動を起こした。遺品が役に立っている。亡くなった方も喜んでいるにちがいない。
青年会議所に所属していた経験が活きたのが、おくりやプラスで提供している山形名物の「冷やし肉ソバ」だ。「青年会議所の仲間から、こんなものがある、という情報をもとに始めました」。山形で行列のできる「そば処かつら北町分店」が監修、出汁の効いた汁に親鶏のモモ肉と胸肉の旨味が広がり、歯ごたえのよい食感と蕎麦のつるっとした喉ごしが特長。山形では、季節を問わず冬でも親しまれているそうだ。
取材を進めながら、「おくりや御守員（ごしゅいん）」という文字に目を奪われた。神社やお寺を参拝したとき、その証として頂ける「御朱印」と同じ語感の「おくりや御守員」会員カードを提示すると、様々な無料特典や会員限定サービスを受けられる他、おくり茶やでも会員価格でメニューを提供している。さらに提携先の店舗で利用できる特典もある。 「フラッフィーパンケーキ＆カフェ」で、「おくりや御守員」を提示し、パンケーキを注文する若い女性も少なくない、と話す。
生まれたからには、死は必ず訪れる。地元小山を知り尽くした老舗の、しかも、新しいスタイルにも柔軟に対応しているおくりや、に心を寄せる人が多いのは、しごく当然なのかもしれない。お茶しながら、見学してみてはいかがだろう。
