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※写真はイメージです。

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2023.05.19

教育・文化芸術・科学コーナー第12回エッセイ 「子供の笑顔は宇宙のほほえみ」

 もう15年前になるのだろうか。孫の一人が小学校に入学するので、二人で近くのスーパーに文具を買いに出かけた時の事である。孫と私は、世帯が別で、お互いにまだ遠慮が有ったが、私は孫と一緒に居るだけでただ嬉,しかった。買い物が終わってレジの方に向かった時、孫は途中で何かをじっと見ていた。それはおにぎり大の薄い円盤型の「ペロペロキャンディ」だった。孫は私の方を振り向こうとせず、ただ食い入るように見つめていた。もし振り向けば「じっちゃん、これ買って」と言う事になると分かっていたのだろう、小さい子ながら礼節を知る子であった。私は孫に「会計済ませるから、レジの向こうで待っててね」と言って、そのキャンディを気づかれないようにそっと買い物籠の一番下に入れた。

 会計が自分の番になった時、私は、そのペロペロキャンディを誇らしく大きくかざして孫に見せた。じっちゃんが自分に、喉から手が出るほど欲しい夢のペロペロキャンディを買ってくれたのだと理解した時、孫はこれ以上無い喜びの笑顔を見せた。「これ以上無い喜びの笑顔」などと言うありきたりの表現では到底足りない。そう、「後光が差すような黄金色の笑顔」がより的確か。いや、それでも足りない。その透き通るような喜びの笑顔は、休み無く働き心身とも疲労困憊の私の心労を、清らな聖水で一気に洗い流してくれる天の恩寵だ。宇宙のエネルギーは、純真な子等の心を通して、一番流れ入ると何かの本で読んだことが有るが、正に本当だ。文具という入学祝いに対し、孫は、虚飾のかけらも無い、純化された無私の笑顔で、私に、何万倍もの「お返し」をしてくれた。

 あの純真無垢な喜びそのものの笑顔は、15年経っても、まだ私の心奥に有り、古希をとうに超えた私の生きる力の一つとなっている。孫の笑顔を,通して私に与えられた、欠ける事も消え入る事も無い宇宙のエネルギーを、今度は私が多くの人に、笑顔で万分の一でもお返しする番だ。お年寄りの笑顔など気持ちが悪いだけだとおっしゃる方もおられようが、宇宙の光を僅かでも放っている老人の優しい笑顔もそれ程悪く無い。万物の中で、宇宙のエネルギーが一番通りやすいのは、我々人類種であり、その通り道は笑顔であり、それ故、我々は笑みを絶やしてはならない。宮沢賢治が「雨にも負けず」の中で、「いつもしずかにわらっている・・・そういうものにわたしはなりたい」と書いたのは、この洞察に他ならない。

 孫の至上の笑顔を思い出す度に、私は、「子供の笑顔は宇宙のほほえみ」と復唱している。

●渡辺私塾会長 著述家 渡辺美術館館長 渡辺淑寛

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